Case Study
事例紹介

“次のフェーズを切り拓く共創プロジェクト”

【企業名】トヨタ自動車株式会社
【活動期間】2025年5月~
【共創先】コンセプト・ヴィレッジ

活動の舞台となったのは、郡山市に拠点を構える株式会社コンセプト・ヴィレッジ。
広告やデザインを活用し、農業や中小企業の潜在価値を引き出すことを目指す企業です。
「地方の中小企業は素晴らしい価値を持っているのに、十分に伝えきれていない。人の心を動かすカラフルな社会を仲間と共に描いていきたい」――。
この思いに応えるべく、トヨタ社員3名のプロボノ活動が始まりました。

キックオフ:「次なる“コンセプト”を目指して」

2025年5月、トヨタのプロボノメンバーがコンセプト・ヴィレッジを訪れました。
「自分の技術が社会にどう役立つのか確かめたい」
「新しい分野に挑戦し、自分を成長させたい」
「17年間勤める中で、これまで見えなかった視点を学びたい」
それぞれが強い思いを持ってプロジェクトに参加し、活動がスタートしました。

共創先であるコンセプト・ヴィレッジの馬場代表は、実家が菊の花を栽培する農家を営んでおり、花束が人の心を動かす瞬間に感銘を受けて広告業界に関心を持つようになりました。
東日本大震災を機に都内の広告会社を退社して地元へ戻り、2013年に起業しましたが、事業の方向性に悩みがありました。農業AIチャットツール「IPPUKU」のアップデートや、新規事業「DRAW UP」の展開を控えながら、どう次のステージに進むべきか。
そこでトヨタのプロボノメンバーが加わり、外部視点からの支援が始まりました

福島の地で実践する“現地現物”の考え

現場で実際にモノを見て、事実を自分の目で確認し、問題の根本を理解しようとするトヨタ社内に根付く考え方である“現地現物”――
そんな考えのもと、まずはコンセプト・ヴィレッジと関連のある県内の店舗や農家を訪問しました。

地元の食品やお菓子を扱う「AMEKAZE WEST」では、コンセプト・ヴィレッジが手掛けるパッケージデザインや販促ツールが並んでいます。
参加者から「デザインに統一性を持たせるにはどうするのか」「クライアントと意見が違った場合の調整は?」等と質問が上がりました。デザインの裏側にあるストーリー性や共感の大切さを実感する場となりました。

「株式会社まどか菜園」では、ジャンボなめこや郡山ブランド野菜の栽培現場を見学。
「販路の課題」や「農産物の規格の決まり方」など、現場ならではのリアルな課題を教えていただきました。参加者は「JAが販路を担うイメージがあったが、多様な流通の形があることを知った」と驚きつつ、農家支援につながる新しい仕組みづくりについて議論しました。

こうした視察を通じて、農業や中小企業が直面する課題を自分ごととして捉え、次の活動への土台を築きました。

課題①:DRAW UP事業の拡大

活動は週1回のオンラインミーティングをベースに進められました。

課題として挙がった1つ目の「DRAW UP事業」の目的は「中小企業や地域事業の潜在価値を一緒に見つけ出して可視化し、クリエイティブの力で最大化する」こと。
現状は馬場代表に業務が集中しすぎており、属人化が大きな課題となっていました。
そこでプロボノメンバーは、トヨタ生産方式(TPS)の考え方を導入。「モノと情報の流れ図」を用いて、業務の流れを丁寧に整理しました。

プロボノメンバーからの提案は、
・業務の流れを工程ごとに可視化し、無駄や重複を排除する
・デザイナーが創造的な作業に集中できる時間を確保する仕組みを導入する
・改善の仕組みを社内に根づかせるために、プロセスを共有・更新できる体制を整える

これまでの業務内容を整理したことで業務上の問題が明確となりました。さらに、トヨタ生産方式の考え方を農業分野にも応用し、地域の農家さんにもご紹介いたしました。

課題②:IPPUKU事業が目指す姿

「IPPUKU」は、農業に特化したAIチャットツールとして誕生しました。
LINEを通じて24時間いつでも農業の質問に答える仕組みで、初心者からベテラン農家まで幅広く活用されています。立ち上げから2年が経ち、次のステップにどう進むかが課題となっていました。

そこで、「トヨタウェイ(行動指針)」の考え方を用いて「目指すべき姿」を検討、事業への思いを改めて言語化しました。
「あらゆる人に寄り添い、日本の農業をもっと強くしていきたい」――。

農家が直面している困りごとは、信頼できる情報が少なく、知見の獲得も難しいこと。コンセプト・ヴィレッジのビジョンに沿っているかを確認しながら、競合サービスも調査し、差別化の方向性を探りました。

その結果、「新IPPUKU」としての構想が生まれました。
AIによる自動回答にとどまらず、農家の疑問を集め、関連企業や専門家、行政とつなげる農家専用SNSへと進化させる方向性で進めることに。

農家・企業・専門家が直接回答できるコミュニティ機能を備え、農家と企業、農家と農家を結ぶマッチングサービスへと進化。さらに農家の困りごとを解決するイベント等を運営し、現実世界でも支援の場を作ろうと考えました。

キーワードは「つながり」と「仲間づくり」。
農家が孤立せず、共に学び合い、支え合える仕組みを作ることが、新しいIPPUKUの目指す姿となりました。

トヨタ本社での学び

活動の中盤には、馬場代表が愛知県のトヨタ本社を訪問しました。

トヨタ会館では、最新の車づくりや社会への貢献の取り組みを展示物や映像で学習。プロボノメンバーが普段携わっている技術の背景や応用の仕方を共有しながら、マーケティングやブランディングの工夫を体感しました。

さらに、通常は公開されないエンジン実験施設を特別に見学。
燃費・加速・耐久性の試験現場で、馬場さんが積極的に質問を重ねました。現場での徹底した分析と改善の積み重ねに触れ、今後の事業改善やブランディングに活かせるヒントを得ました。

成果発表会

活動の集大成となる成果発表会では、メンバーそれぞれが今回の活動で得た学びを振り返りました。

「最初は不安もあったが、仲間と協力し合いながら活動できたこと大きな学びを得られた」

「経営者と肩を並べて活動したことで、仕事の見え方や課題意識が変わった」

「同世代が本気で地域に挑む姿に刺激を受けた。自分の力を活かせたことも嬉しい」

活動を通して、福島が「第二の故郷」という感覚が芽生えるほど強い絆が育まれました。メンバーの一人は郡山市へふるさと納税を行い、活動を超えた新しいつながりも生まれています。

最後に、馬場代表からもフィードバックがありました。
「人生が変わるような貴重な体験だった。次のフェーズに進むに当たって行き詰っている部分があった中で、3人に入っていただいたことで見えたものがあった。今回の取組は自分にとっても企業にとっても大きな財産。これで終わることが寂しく、そしてもったいないと感じるが、今後の成果を福島から見せていきたい。今後も様々な形で繋がりを継続していきたい」と、メンバーに感謝の言葉を寄せました。

おわりに

実際に福島の地に足を運び、現場を訪れて生の声を聞くことで、メンバーと企業、そして地域の人々との間に「絆」が生まれました。この絆は、今後の事業や活動を支える基盤として、さらに広がりを持っていくことが期待されます。
単なる業務改善や新規事業支援にとどまらず、人と人とのつながりを深める場にもなりました。


▶参考リンク
株式会社コンセプト・ヴィレッジ(福島県郡山市)
https://concept-village.co.jp/

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