福島のワインを全国に発信!
【企業名】トヨタ自動車株式会社
【活動期間】2025年5月~
【共創先】吾妻山麓醸造所
福島市の西部、吾妻山の麓にあるワイナリー“吾妻山麓醸造所”。
豊かな自然環境で育まれたブドウを原料にワイン造りに取り組んでいます。設立して6年目を迎えましたが、経営体制やブランドの認知度不足など多くの課題を抱えています。
「地域にワイン文化を根付かせたい」「福島ならではのストーリーを発信したい」――。
そんな想いに共感したトヨタ社員が集い、プロボノ活動が始動。
東北や福島にゆかりのある3名が地域の課題解決に挑みました。
キックオフ:「“福島を醸す”ワイナリーの挑戦」
2025年5月、トヨタのプロボノメンバーが吾妻山麓醸造所を訪れました。
「東北出身として、少しでも地元に貢献したい」
「両親が福島出身で、子どもの頃から福島にはよく足を運んでいた」
「福島で生まれ育ち、地元を元気にする取り組みに関わりたい」
それぞれの思いを語り、活動は始まりました。
迎えてくださったのは、株式会社吾妻山麓醸造所の牧野社長と、同社でのボランティア活動を機に入社された加藤さん。
吾妻山麓醸造所は2019年に誕生しました。品質に自信はあるものの、まだ広く知られていないのが現状です。また、ワイン文化が地域に根付いていないこと、国内のワイナリー増加による差別化の難しさ等、課題は少なくありません。
「どうすれば畑作業の効率化につながるか、ワインの物語や希少性を伝える手段はあるのか、福島発ブランドとして確立していくための戦略は―――。」
牧野社長から、外部視点で課題を整理することで改善のヒントをもらえることへの期待が語られました。
牧野社長のこだわりが生んだ“福島ならでは”のストーリー
まずご案内いただいたのが、赤ワイン用ブドウ「メルロ」の畑です。
栽培の過程やこだわり、品種ごとの生育の違いについて説明を受けました。
「土壌はどのように管理しているのか?」
「ボランティアはどんな形で募集しているのか?」
「味をどう数値化しているのか?」といった質問が飛び交い、ブドウづくりの奥深さを肌で感じる時間となりました。
続いて醸造棟へ移動し、製造から熟成までの工程を学びました。
樽とタンクの違いによって風味や発酵の進み方が変わること、気候の変化が品質に直結することなど、ワインづくりの基礎知識に触れることができました。
また、牧野社長からは「この地域では春になって気温が上がると、吾妻山の残雪がうさぎの形に見えることから“雪うさぎ”として愛されている。この“雪うさぎ”を合図に農家が種まきを開始していたことから別名“種まきうさぎ”と呼ばれる。醸造所のロゴはこの『雪うさぎ』から着想を得たものである。」と醸造所のロゴに込められたストーリーもご紹介いただきました。
現状把握から始める活動戦略
週1回のオンラインミーティングをベースに活動が進められました。
当初、プロボノメンバーにワイン造りや農業の専門知識はなく、最初のステップは現状把握をすることでした。
①生産現場の理解
トヨタ生産方式(TPS)をベースとした業務改善ツール「モノと情報の流れ図」を活用し、栽培から醸造、出荷準備までの工程を可視化しました。現場で実際に作業を体験し、作業者ごとにやり方が異なる点や、改善できそうなポイントを洗い出しました。
②他社動向の調査
国内のワイナリーを調べ、アピール方法やPR戦略を分析。道の駅や観光物産館での販売の様子も参考にし、吾妻山麓醸造所の強みと弱みを整理しました。
こうした調査をもとに、「農場・醸造工程の改善」「ブランド力の向上」「認知度向上と販売増」という3つのテーマを活動の柱に掲げることが決まりました。
無理そうなことでも、まずは行動してみる!
課題解決に向けた販路拡大とPR強化のため、メンバー自らが行動に出ました。
①バル仙台出店(宮城県)
牧野社長の思いやワイン造りへのこだわりを整理した3種類のPR資料を作成。プロボノメンバーが愛知県から仙台市で開催されたワインイベントに駆け付け、このPR資料をもとに実際に来場者へワインの営業を行いました。
来場者からは「他にない個性が魅力的」といった声が寄せられ、売上増加に加え、インスタグラムのフォロワーも増加しました。
PR資料の活用により、専門知識がない人でも販売に携われることが確認でき、今後ボランティアによる販売支援の可能性も見えてきました。
②ふくしまうまいものフェア出店(愛知県)
ワインの認知度向上のため、プロボノメンバー内で県外のイベント出店を検討していたところ、名古屋市で開催される「ふくしまうまいものフェア」に関する情報をキャッチ。この機会を逃すまいと主催者と連絡を取り合い、初めての東海地方進出が実現しました。
来場者の反応も上々で、今後のイベント出店や常設販売の可能性に繋がりました。
また、イベントに合わせて、勢いそのままに牧野代表と名古屋市内の「ワインバー売り込み」「小売店売り込み」を実施。名古屋での新たなつながりも生まれました。
③新たなチャレンジ
日本橋ふくしま館(東京都)の初出店計画や、テレビ番組出演の企画案の作成、さらにはプロモーションビデオの撮影も進めました。醸造所の全景や畑をドローンで撮影し、映像による発信の準備も整いつつあります。
3つの成果と生まれた芽
今回のプロボノ活動で“蒔いた種”により吾妻山麓醸造所にとって、目に見える成果と、これからにつながる“小さな芽”がいくつも生まれました。
①農業・醸造工程の改善
これまで経験や勘に頼っていた作業を手順書や道具を使って整理したことで、誰でもスムーズに作業ができるようになり、ミスの減少にもつながりました。トヨタ流の業務改善の考え方が、少しずつ現場に根づき始めています。
②ブランド力の向上
「辛口ワイン」という個性や、牧野社長のこれまでの歩み、こだわりをしっかりと言葉にして資料にまとめたことで、吾妻山麓醸造所の「個性」がより鮮明になりました。自分たちの強みを改めて見つめ直し、それを外に伝える力がつきました。
③認知度向上と販売増
仙台や名古屋でのイベント出店をきっかけに、新しいお客様や取引先との出会いが生まれました。SNSのフォロワーも増え、「このワイナリーをもっと知りたい」という声が広がりつつあります。売上という数字にも表れてきていますが、それ以上に「応援してくれる人が増えている」という実感が力になっているようです。
成果発表会
活動の締めくくりとして開かれた成果発表会では、メンバーそれぞれが今回の活動を振り返りました。
「貴重な経験をさせていただいた。未経験なことばかりで戸惑うことも多かったが、仲間の斬新なアイデアや行動力に背中を押されて活動できた」
「吾妻山麓醸造所、そして福島県のファンになった。誰かのために行動する皆さんの姿に感動し、自分もブレずに人のために活動し、成長していきたい」
「牧野社長や加藤さんが本気で醸造所を盛り上げようと挑戦する姿に、終始刺激を受けた。まずは行動し、人との繋がりを生かして業務を広げることが大切だと痛感した」
最後に、牧野社長からもフィードバックがありました。
「密度の濃い時間を共に過ごせたことに感謝している。トヨタ式のプロセスを生かして改善策を作り上げてくれたことで、これまでできなかったことが少しずつ形になってきた。プロボノ活動をきっかけに始まった東海エリアでの出店については、ぜひ今後も力を貸してほしい」と、今後のつながりにも期待を寄せました。
おわりに
今回の活動は品質には自信がありながらも、認知度向上に悩んでいた吾妻山麓醸造所にとって、新しい一歩を踏み出すきっかけとなりました。“蒔いた種”はすでに“芽吹き”始めており、改善の積み重ねやブランド発信を続けていけば、この芽はやがて太い幹へと育っていくはずです。
ワインと共に歩む物語は、これからも続いていきます。
▶ 参考リンク
吾妻山麓醸造所(福島県福島市)
https://azumasanroku-winery.co.jp/