「会津娘」を支える現場から、日本酒づくりの未来を描く
【企業名】トヨタ自動車株式会社
【活動期間】2024年5月~
【共創先】株式会社髙橋庄作酒造店
日本酒「会津娘」を手掛ける会津若松市にある蔵元・株式会社髙橋庄作酒造店は『会津から福島へ、福島から全国へ』を掲げ、日本酒文化の継承と発展に力を注いでいます。
「酒造りに専念できる環境を整えたい」「お客様にもっと日本酒の魅力を届けたい」――。
この思いに共感したトヨタ社員3名が、プロボノ活動としてチームを結成しました。
キックオフ:「蔵元の思いに寄り添う」
2024年5月、トヨタのプロボノメンバーが現地を訪問しました。
「トヨタで勤務し20年。トヨタ色に染まった今の自分に何ができるのか」
「凝り固まっている自分の能力を新しいチャレンジにより広げたい」
「自社内だけでなく、外の世界をもっと知りたい」
プロボノメンバーそれぞれが社会貢献・地域貢献への思いを胸に、活動が始まりました。
酒蔵が抱える課題は、「技術・製造現場のタスク管理」「在庫管理の負担軽減」など業務改善の他、「気温上昇による品質への影響」「若年層へのアプローチ」といった業界全体についても、髙橋代表から教えていただきました。
プロボノメンバーはこれらの課題を「製造と顧客体験」の両面から整理。
トヨタ生産方式(TPS)の考え方を基に、受注から出荷業務のどこで滞りが起きているか可視化することにしました。
一方で、若年層への訴求に関しては、「誰にどんな理由で選ばれるのかを言語化することが大切」という視点を共有。
「会津娘」というブランドの魅力を改めて捉え直すため、お客様の声や体験を活かした「共感ベースのファンづくり」を支援する方向性が定まりました。
田んぼでの酒米づくりや出荷作業にも同行し、課題の背景にある日々の努力と工夫を体感しました。
3つの課題を抽出
オンラインミーティングと共に、トヨタに根付く“現地現物”の考えから1か月に1回程度現地訪問をする形で活動を進めました。
現場での対話と観察を通して、蔵元とチームが共有した課題は3つに整理されました。
① 酒造りに集中するための業務効率化
タスク管理、在庫管理、発注管理(商品、資材)といった管理業務に時間を取られ、酒造りへ集中することが難しく、また在庫報告や国税庁への月次報告など、少人数体制にとって大きな負担となっている。
② お客様の声を酒造りに反映させる仕組み
「お客様から頂いた声を自分たちの仕事に活かしたい。モチベーションに繋げたい」という蔵の想いがあった。
一方で、それらを整理・共有し、商品開発や発信に活かす仕組みが十分ではない。
③ファンとのつながりを強化する発信力の向上
「会津娘」ブランドの持つ魅力は深いものの、若年層に届く表現や接点が不足しており、継続的なファンづくりの仕組みが課題。
課題①:酒造りに集中するための業務効率化
まず着手したのは、蔵の皆さんが日々感じている「困りごと」の洗い出しでした。
製造過程でのタスク管理や、在庫・発注管理の煩雑さ、出荷伝票の不一致などが積み重なり、酒造りに使える時間を圧迫していました。
受注~出荷の流れを「モノと情報の流れ図」で可視化。どの工程でミスや手戻りが発生しているのかを明らかにしました。
さらに、作業の標準化と効率化を進める中で、出荷管理表の自動作成ツールを導入。作業工数は約半分に削減され、社員がより多くの時間を酒づくりに充てられるようになりました。
蔵の皆さんからは、
「みんなで集まって話せたのが何より良かった」
「困りごとを出して終わりではなく、解決まで辿り着くことができた」
「自分たちでも仕事のやり方を変えられると気づいた」
といった声が寄せられました。
課題②:お客様の声を活かす仕組みづくり
「お客様の声を仕事に反映し、自分たちのモチベーションも高めたい」という社員の思いに応えるべく、会津若松市内の飲食店と蔵元がコラボした飲み歩きイベント「会津清酒弾丸ツアー」やいわき市内の酒屋が主催する「澤木屋酒の会 夏の宴」などのイベントで寄せられた感想をもとに、全員で感じたことを語り合いました。
お客様はどんなことを思っているのか、何を評価しているのかを言語化し、共有したことでそれぞれの理解度が深まり、さらに議論することの重要さも認識することができました。
課題③:ファンとのつながりを強化する発信力の向上
プロボノメンバー3名はいずれもエンジニアで、マーケティングは得意分野ではありませんでしたが、蔵の皆さんと対話を重ねる中で「自分たちのお酒に共感してくれるファンを増やしたい」という思いを共有しました。
デザイン思考の手法を使い、実際に日本酒イベントに参加して会津娘を求めるお客様の行動や会話を観察しました。
分析した結果、ファンが育つ流れは、
酒を飲む → おいしいと思う → より知りたい → 周囲に伝える
(認知→理解→共感→行動)
という4段階であることが明らかになりました。
特に「より知りたい」と思う層を増やすことに重点を置き、酒瓶のQRコードにHPへの誘導文を新たに追加。結果としてHPのアクセス数が増加し、「日本酒文化をより知りたい」と思う層を増やすことにつながりました。
成果発表会
2024年10月。
活動の集大成となる成果発表会では、プロボノメンバーそれぞれが今回の活動で得た学びを振り返りました。
「最初はどう進めれば良いのか分からず右往左往したが、蔵の皆さんと少しずつ話せるようになり、改めて話す・聞く・議論する大切さを実感した」
「酒造りと自分たちの車作りには共通する事もあり、気づかされることもあった。得たことを持ち帰って咀嚼し、今後の車作りに活かしたい」
「改善活動では“まずやってみる”を意識して取り組み、改善のサイクルを繰り返すことで効率的に進められたことは今後の自業務にも活かせると感じた」
最後に、髙橋代表からもフィードバックがありました。
「これまで自分たちだけで試行錯誤を重ねてきたが、外部の視点を得ることでこんなにも新しい発見があるとは思わなかった。このご縁こそ何よりの財産。これからも共に挑戦を続けたい」と、感謝の言葉を寄せました。
おわりに
今回のプロボノ活動は、蔵の皆さんにとって課題を出すだけでなく、原因を考え、実行する力を育む機会が創出されました。プロボノメンバーにとっても、自らの手法が社会の中で生きることを実感する場になったようです。
対話を重ねる中で、「おいしいお酒を届けたい」という思いと、「人を育て社会を良くしたい」という理念が響き合い、“共感の循環”が生まれました。
会津から福島、そして全国へ――日本酒を通じた挑戦はこれからも続いていきます。
▶ 参考リンク
株式会社髙橋庄作酒造店(福島県会津若松市)
https://aizumusume.co.jp/