Case Study
事例紹介

地域の命を新たな価値へ ~西会津で始まったものづくりの挑戦~

【企業名】日本電気株式会社
【活動期間】2025年12月~2026年6月
【共創先】やまあみ鞄製作所

2024年2月に締結された福島県とNECとの包括連携協定をきっかけに始まった、NEC社員による福島県でのプロボノ活動。

今回の共創先は、西会津町で地域の素材を生かした鞄や革小物を製作する「やまあみ鞄製作所」です。
代表の片岡美菜さんは、神奈川県出身。グラフィックデザイナーや東京都内の鞄製作会社での勤務を経て、会津の文化や自然に惹かれ、2020年に西会津町へ移住しました。
やまあみ鞄製作所では、獣害対策で捕獲されたイノシシやクマ、シカなどの皮を活用し、鞄や財布などを製作しています。
その中で展開するブランドの一つが「ZICA」です。

「売れるから作るのではなく、あるものから作る」――。
捕獲された動物の皮が活用されないまま廃棄されてしまう現状に向き合い、命を無駄にせず、新たな価値へと変えていく。
そんな片岡さんの想いに共感したNEC社員が集まり、共創活動がスタートしました。

キックオフ:福島への想いとそれぞれの専門性

オンラインで行われたキックオフミーティングでは、NECのプロボノメンバーと片岡さんが初めて顔を合わせました。

プロボノメンバーからは、
「実家が福島県にあり、親しみのある地域に貢献したい」
「経理や予算管理の経験を、事業計画や収支管理に役立てたい」
「地域課題やエシカルレザーに関心があり、参加を決めた」
など、それぞれの参加動機が語られました。

一方、片岡さんからは、鞄のデザインや製作には経験があるものの、一人で工房を運営しながら、販売、情報発信、経理まで担うことに難しさを感じていることが共有されました。

ものづくりへの想いを大切にしながら、事業として無理なく継続していくには何が必要なのか。
片岡さんの想いや現状を丁寧に聞きながら、活動の方向性を探りました。

フィールドワークで触れた、命から始まるものづくり

2025年12月、NECのプロボノメンバーはやまあみ鞄製作所の店舗を訪れ、片岡さんから事業を始めた背景や製品づくりについて話を伺いました。

やまあみ鞄製作所では、捕獲された動物の皮に残った肉片を取り除き、鞣(なめ)し工場へ送るところから製品づくりが始まります。
一般的には分業される工程ですが、片岡さんは素材の状態から直接向き合い、製作、販売までをほぼ一人で担っています。

当日は、プロボノメンバーも皮から肉片を取り除く作業(剪打ち)を体験しました。
1枚の皮を処理するには2時間近くかかることや、動物の種類によって皮の特徴や作業の難しさが異なることを知り、製品が完成するまでに必要な労力を実感しました。
また、皮には、動物が生きてきた証である傷や個体差が残ります。
対面では片岡さん自身がその背景を伝えていますが、WebサイトやSNSでは十分に伝えきれていないことも課題として見えてきました。

現地での気づきを5つの共創へ

フィールドワーク後のディスカッションでは、片岡さんが抱える課題や今後取り組みたいことを整理しました。
当初は商品開発や都市部での販売、クラウドファンディングなど、幅広い案が出されましたが、一人で製作と事業運営を担う片岡さんの負担も考慮し、すべてに取り組むのではなく、優先する課題を絞ることとなりました。
検討の結果、活動は主に次のテーマに分かれて進められました。

 ①経理・収支の見える化
 ②Webサイト・SNSによる情報発信
 ③動画制作
 ④会津大学短期大学部との連携
 ⑤ZICA2周年祭の企画・運営

プロボノメンバーは、それぞれの経験や専門性に応じて役割を分担し、週1回のオンラインミーティングを基本に活動を進めました。
片岡さんもミーティングに参加し、プロボノメンバーからの提案内容を確認しながら、実施できることや優先順位を一緒に整理していきました。


経理・収支:「つくる時間」と利益を見える化する
一人で製作から販売までを担う片岡さんにとって、時間は限られた大切な資源です。
一方で、製品の原価や製作時間と販売価格のつながりが見えにくく、「何を何点販売すれば事業が成り立つのか」「現在の価格は適正なのか」を判断しづらいことが課題となっていました。

そこで、プロボノメンバーは帳簿や価格設定の方法を確認し、製品ごとの原価、売価、粗利を管理する利益管理シートと、作業時間を記録する時間管理ツールを作成しました。
また、自社製品だけでなく、OEMやワークショップなど、商材ごとの収益性を把握できるようにするとともに、入力の負担を減らすため、計算式や機能にも工夫を加えました。

こうした取組により、適正な価格設定や時間の使い方を考えるための土台が整いました。


情報発信:“見られる”から“選ばれる”発信へ
Instagramは多くの人に見られているものの、フォローや商品の購入には十分につながっていない状況でした。
そこで、ストーリーズやハイライト、ピン留め投稿の活用、オンラインストアへの導線などを見直し、初めてZICAを知った人にも、その特徴や想いが伝わる発信方法を一緒に考えました。

片岡さんが無理なく続けられる方法を取り入れながら改善を重ねた結果、Instagramのフォロワーもプロジェクト開始時から大きく増加しました。


動画制作:ZICAの物語を映像に
動画制作では、これまで片岡さんが店頭で伝えてきた、製品の背景やものづくりへの想いをどのように映像で伝えるかを考えました。

傷や個体差も動物が生きてきた証であること。
捕獲された命を無駄にせず、地域にあるものを生かして作ること――。

こうしたZICAならではのものづくりの背景や姿勢が伝わるよう、片岡さんが持っていた写真や映像を活用し、素材や作業風景だけでなく、そこから生まれる製品までを見せることで、ブランドの世界観や物語を感じてもらえる構成にしました。
また、活動終了後も片岡さん自身が発信を続けられるよう、動画制作のマニュアルやSNS投稿文の構成案も提供しました。
動画を制作して終わるのではなく、今後もZICAのブランドやものづくりの魅力を発信していけるよう、継続的な情報発信の土台まで一緒に整えました。


会津大学短期大学部との連携:ものづくりの未来を、地域とともに
活動では、地域の中に継続的な協力関係をつくることも検討しました。
きっかけとなったのは、会津大学出身のプロボノメンバーによる提案です。
地域素材を生かした商品開発や、イベント運営に学生が関わることで、片岡さんの活動を支える新たなつながりをつくれないかと考えました。
大学関係者への働きかけを進めた結果、会津大学短期大学部との接点が生まれ、学生4名がZICA2周年祭の運営に参加することとなりました。

遠方から支援するプロボノメンバーだけでなく、地域の若い世代ともつながることで、片岡さんの活動を地域で支える新たな関係が生まれました。今後の商品開発やイベント運営など、継続的な連携への発展も期待されます。

これまでとこれからをつなぐ「ZICA2周年祭」

共創活動の一つの節目として、2026年6月27日、28日に「ZICA2周年祭」を開催しました。

開催に向けて、プロボノメンバーは、片岡さんが大切にしている
「これまで支えてくれた人へ感謝を伝えたい」
「初めて訪れる人にも、ZICAの背景を知ってほしい」
という想いを聞きながら、企画や広報、当日の運営方法を一緒に考えてきました。

イベント前日には、プロボノメンバーも一緒に店舗のレイアウト変更や剪打ちの会場となる蔵の清掃を行いました。
また、片岡さんから革の特徴やレザークラフトの手順、接客方法を教わり、当日はプロボノメンバーや会津大学短期大学部の学生も、来場者への案内や体験のサポートを担当しました。



会場では、子どもから大人まで幅広い世代がレザークラフトを楽しみ、蔵で行われた剪打ちの実演では、「この作業を長時間続けるのは本当に大変」と驚く声も上がりました。
完成した製品を見るだけでは分からない手間や、命ある素材を扱うことの重みが、体験を通して来場者へ伝わっていきました。

また、新規顧客開拓を目的に道の駅でチラシを配布。配布したチラシをきっかけに初めて店舗を訪れ、レザークラフトを体験したり鞄や財布を購入する人もいました。県外や海外からの来場もあり、これまで接点のなかった人にZICAのものづくりを届ける機会となりました。

来場者が製品を手に取り、素材や製作工程について話を聞く様子からは、片岡さんが大切にしてきた背景や想いが、体験を通じて伝わっていることが感じられました。また、どのような人が、何をきっかけに訪れ、ZICAのどこに関心を持つのかを知ることができ、今後の発信や販売を考えるうえでの新たな気づきも生まれました。



活動を通じて見えた、本当に必要な支え

イベント終了後、片岡さんは、

「自分一人では実現できなかった。チラシの効果や新しい客層、来場者が何に興味を持つかを知ることができた。」と振り返りました。

今回の活動を通じて見えてきたのは、経理や情報発信に関する知識だけでなく、必要なときに一緒に考え、実際に手を動かしてくれる人の存在そのものが、大きな支えになるということでした。
イベント当日は、プロボノメンバーや学生が接客やレザークラフト体験、配信などを分担。
一人では同時に行うことが難しかった取り組みを実現し、片岡さん自身も来場者との会話や製品の説明に向き合うことができました。

プロボノメンバーにとっても、それぞれの専門性を生かした提案に加え、片岡さんの時間や状況に寄り添い、必要な場面で一緒に手を動かすことの価値を実感する機会となりました。

おわりに

活動全体の振り返りで、片岡さんは、
「皆さんが自分の事業に強い想いを持って取り組んでくれたことがありがたかった」
「一人では気づけなかったことに、打ち合わせや活動を通じて気づくことができた」
「日々の製作に追われる中で、今回の活動は未来への投資につながる時間となった」
と語りました。

やまあみ鞄製作所とNECプロボノメンバーによる共創は、単に課題への解決策を提案する活動ではありませんでした。
実際に西会津を訪れ、素材や製作工程に触れる。片岡さんの想いや事業の状況を聞き、何が必要なのかを一緒に考える。
そして、それぞれの専門性を持ち寄り、できることを選びながら、実際の取組へとつなげていく――。

その積み重ねによって、情報発信や動画制作、事業管理の仕組み、2周年祭などが一つずつ形になりました。
さらに、会津大学短期大学部とのつながりや、イベントを通じた地域内外の人々との出会いなど、当初の課題解決にとどまらない広がりも生まれました。

活動は一つの区切りを迎えましたが、今回生まれた仕組みやつながりは、これから片岡さんが新しい発信や商品づくり、体験の企画に取り組むとき、その歩みを支える土台として生かされていきます。

「捕獲された動物の命を、地域の新しい価値へとつなぐ。」
その想いを製品や体験を通じてより多くの人へ届けるため、やまあみ鞄製作所とZICAの歩みはこれからも続いていきます。

▶参考リンク
やまあみ鞄製作所
https://www.yamaami.com/

NECプロボノイニシアティブ(NEC社のプロボノ活動内容)
https://jpn.nec.com/community/ja/resources/business_supporter.html

福島県とNEC、デジタル変革の推進と県産品の振興に関する包括連携協定を締結 (2024年2月21日)
https://jpn.nec.com/press/202402/20240221_01.html

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